乳母銀杏伝説(神奈川民話)
樹齢300年余の大銀杏は横浜市指定名木で、天狗がいるといわれています。
昭和30年頃まで高さ30m以上ありましたが、落雷により上部が燃えてしまいました。
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伝説によると、久志本左京亮夫妻は一子常勝を得たが、妻の乳は一滴も出なかった。赤子は日に日にやせ細り、骨と皮ばかりになり、もはや泣き声を出す力すらない。
半狂乱になった両親は神仏に祈る以外にない、と夫婦揃ってこの寺に詣で、「どうか乳を授けてください。このままではこの子は死んでしまいます」と一心不乱に祈願した。
祈り疲れ果てた夫婦が帰りしなに銀杏の大木の下にたたずんでいると、ポターリ、ポターリ、何か落ちる音がして、赤子の泣き声がピタリとやみ、舌つづみを打つ音さえする。
びっくりした夫婦は、胸に抱いた赤子を見た。すると、不思議!赤子は銀杏の大木から乳房のようにたれさがった先端からしたたり落ちる真っ白な乳を飲んでいる。
夫婦は大喜び。
妻は毎日、赤子を抱いてこの木の下に通った。振り仰げばたちまち乳が流れ出て、常勝は健やかに成長し、たくましい武士になった。
その後、お乳の出ない母親たちが、この乳母銀杏に詣で、乳の出ることを祈願したという。